ただ、それだけがあなたとのつながりだったから。
だから無理してでも好きになったのに。








ダージリンの香り 前





。残念だが今回も不合格だ。」




イルカ先生のはっきりとしたその言葉が私の胸に深く沈みこんで、思わず私はうつむいてしまった。
・・・・また卒業できなかった。


しょんぼりしながら、廊下に出ると
「ねぇ、あのこ卒業できなかったらしいよー。」

「えーだっさー。なんか、去年も落ちたらしいじゃん。」

「ちょっと!あんまり大きい声だと聞こえるよ。」

少し離れたところで、先に無事卒業試験に合格した女の子たちがクスクスと自分を笑う声が聞こえた。


アカデミー内に友達はいない。
私みたいな落ちこぼれとは誰も仲良くしてくれなかった。
それに、仲良くなった子たちは皆去年卒業していった。
今では皆立派に下忍として働いているらしい。
中にはもう中忍になった子もいると、こないだ授業の前にイルカ先生が言っていた。


二年連続卒業試験に落ちてしまった私は家に帰るわけにもいかず、1人空いている教室を見つけて窓の外を眺めていた。



お父さんは上忍だ。昔暗部にもいたことがあるっていってた。
お母さんは一般人だ。料亭で働いていたところをお父さんに惚れこまれて結婚したんだって言ってたっけ。


最初私が忍になる、と言い出したときお母さんはすごく反対した。
命の心配をするのはお父さんだけで十分だ、と。

でも、私はお父さんみたいに立派な忍になって木の葉の里の役に立ちたかった。
昔お隣に住んでいた、あのきれいなくの一のお姉さんみたいに。




なんで私はこんなに落ちこぼれなんだろ。
ちゃんと、お父さんの血が半分流れているのに。
私だって、忍の子なのに。


くやしくて、情けなくて。でもこんなところで泣くわけにもいかなくて、私はうつむいて強く下唇を噛んだ。




「なんで?なんで、皆に出来ることが私には出来ないんだろう・・・・。」




今にも瞳から涙が溢れそうだったその時、教室の扉がガラッという音を立てて開いた。




「こんな所にいたのかー。、探したんだぞ。」
イルカ先生は、探すのが大変だった。とでも言いたげに私のそばにゆっくりと歩いてきた。



?いつまでもこんな所にいたらお母さんが心配するぞ。」
な?と言ってイルカ先生は私の顔を覗き込むように見た。




「・・・・家には帰れないよ・・・・だって、私・・・・また試験落ちちゃったし。」




ふぅーと先生は息を吐いて、私を見下ろすようにしてからこう言った。
「じゃあ、とりあえずついといで。ずっとここにいるわけにもいかないだろう?」





?」

先生は、下を向いたまま何の反応もしない私にしびれを切らしたのか


「オレのとっておきをご馳走してやるからさ。な?」
そう言って私の頭をポンポンとなでてから、ゆっくりとドアに向かって歩き出した。






ーいらないのかー?」


「ぁ、いる!」
先生のとっておきが何なのか少し気になって、私はそれまでいた場所からあわててイルカ先生のところにかけていった。


「なんだぁー?現金なヤツ。」
イルカ先生は物につられた私が少しおかしかったのか、クスクスと笑いながら私が追いつくのを待ってくれた。


「ね、イルカ先生のとっておきってなに?」


「んー?見てからのお楽しみだよ。」


もったいぶられたことと、なんだかすごく子供あつかいされているような気がしてちょっとむっとした。
けど、さっきまでのくやしい気持ちとか自分を否定する気持ちが薄くなって心が軽くなった。

そんな私に気がついたのか、イルカ先生は優しく笑って私の少し前をゆっくり歩いていた。








職員室の前についた後ちょっと待ってろと言って先生は中に入っていった。

「よし、行くぞ。」
職員室から出てきた先生は、マグカップを2つ。中身がこぼれないように大事そうに持っていた。


「?」
あんまりよくわからなかったけど、私は黙ってついていった。




ついていった先は、アカデミーからちょっと離れたのんびりした雰囲気の木陰だった。

「ま、座れよ。」
ポンポンと自分が座った隣を叩いて、先生は私に座るように促した。


「ん。」

私が座ると、イルカ先生は持っていたマグカップのうちの1つを私に差し出した。


「これがオレのとっておき。うまいんだぞー。」

軽く湯気が立ち上る中をのぞいて見ると、透明な茶色の液体が入っていた。
さわやかな香りが湯気と一緒に、ほのかに鼻をかすめた。

「これって、紅茶?」


「そ、ダージリンティーっていうんだ。少し渋いけど、爽やかですっきりしてて疲れたときにいいんだよ。」


「ふーん。飲んだことない。」
お前にはまだちょっと、早いかもなー。
なんて、また先生が私を子供あつかいしているのを横目に、私はやけどしないようにふーふーしながらゆっくりと口に含んだ。





「・・・・・・。」
正直言って、あんまりおいしくなかった。
なんか、ちょっと苦いし。


「あんま、好きじゃなかったか?」


苦いからあんまり好きじゃない、なんて答えたらまた子ども扱いされると思った私は、くやしまぎれに




「・・・・・なんか、イルカ先生みたいな味がする。」
なんて、あんまりよくわかんないことを言ってみた。


そしたら、案の定イルカ先生は、不思議そうに


「なんだ、それ?・・・あ、オレは少し渋いけど爽やかでかっこいいってか?」

「あはは、先生ってばアタシそんなこといってないよー。」
イルカ先生のおどけたかんじがなんだかおかしかったから、おもわず声をだして笑ってしまった。

そんな私を見て、イルカ先生は優しく微笑んでいた。

「・・・やっと笑ったな。」
つぶやくような、小さな声は私に届くには少し小さすぎた。


「え?」

「だからさ、やっと笑ったなーって。お前さっきまでこの世の終わりみたいな顔してたぞ。」


そ、そんな顔してたっけ。
まぁ、でも二回連続でアカデミーの卒業試験に落ちれば私にしたらこの世の終わりに限りなく近い。


「私、忍に向いてないのかなーって・・・思って。変化の術もまともに出来ないんじゃ立派な忍者になんてなれっこないよね。」
イルカ先生が隣にいてくれることで、さっきよりはましだけどまた暗い気持ちが私の心を被い始めていた。





「んーまぁ、人には向き不向きがあるからな。お前変化の術苦手だもんなー。」




「・・・・うん。」


はさ、なんで忍になろうと思ったんだ?たしかお母さんは一般の方だったよな?」
生徒思いのイルカ先生はの家庭環境もばっちり把握済みだ。

「うん、最初はお母さんに反対されたんだけど。お隣に住んでたきれいなくの一の人みたいになりたいなって思って。
 あと、忍になって木の葉の里のために役に立ちたかったから・・・・けど・・・」
 こんな所でつまづいている私なんかが、って思ったらどんどん自信がなくなって最後の方は先生に聞こえるギリギリなくらいの声になっていた。


「そうか、立派じゃないか。みたいな子どものときから、里のためにって思うのは偉いぞ。
 皆どうせ、忍者はかっこいいからーとか、くの一になったら男の子にもてるーとかそんなことしか考えてないんじゃないか。」


そんな、皆単純じゃないと思うけど。
イルカ先生ってアカデミー生をすっごく子どもに見てるんじゃないかなぁ。
まぁ、実際子どもだけど・・・・でも、イルカ先生の場合ちょっとひどすぎるよね。
でも、なんかイルカ先生が一生懸命私を励まそうとしてくれているのがわかって私の顔はほころんだ。

「ふふふ、イルカ先生って先生なんだねー。」

「なにを生意気な。ダージリンティーも飲めないお子ちゃまのくせしてー。」

「な!違うもん!飲めるよ。」
さっきから全然減ってない中身を確認してから、イルカ先生がそう言ったので
私はすっかり冷めてしまったこの飲み物に、あわてて口をつけた。


「まぁーなんだ。その、無理して飲まなくていいんだぞ。」
自分のとっておきと言った手前、に気を使わせたと思ったのかイルカは少し困ったようにそう言った。


「今度は、ココアでも用意しておいてやるよ。」


また、子どもあつかいするー
それにアタシ、ダージリンティーって嫌いじゃないよ。
苦くてあんまり飲めないけど、イルカ先生はこれ好きなんでしょ?
だったら・・・・なんだか好きになれそうな気がする。


「いい。私別に、これ嫌いじゃないし。」

先生にはちょっと背伸びしたい子どもみたいに見えたのか、クスクス笑っていた。
・・・・子どもじゃないもん。


「なぁ、。今度修行つきあってやろうか?このままじゃ、お前いつまでたっても変化の術出来ないままだろ。
 まぁ、くの一の範囲はオレには分からないから基本的なことしか教えてあげられないけどな。」

急なイルカの申し出にの瞳は輝いた。


「え?!いいの?」


「ん?まーお前は特別だ。いつまでたっても卒業できないんじゃ、オレの教師生命危ういからなー。」


「むぅー来年こそちゃんと卒業するもん!変化の術だって、すぐ出来るようになるよ!」


「はいはい、それはちゃんと出来てから言うんだな。じゃあ、さっそく明日からな。
 来年度の授業は来月からだから、来月からは授業が休みの週末に一回。
 それまではオレもわりと手が空いてるから二日おき、だ。」


「はーい。」
は、イルカ先生との特訓を想像して今からわくわくしていた。

「コラ、遊びじゃないんだぞ。」
気を引き締めていけ。なんて先生お得意のお説教が始まりそうだったから、私はあわててそれをさえぎった。

「わ、わかってるって。修行だもんね!私頑張る!」
気合の表れを伝えたくて、ガッツポーズをしてみせた。


「ふふふ、まぁそんだけ元気なら心配ないな。じゃあ、まぁけっこういい時間だしお前はそろそろ家に帰れ。親御さんが心配するだろう?」

時間も忘れてすっかり話し込んでいたは、そういえば太陽が沈みかけて辺りが暗くなり始めていることに気がつき慌てた。

「やばい!今日試験だけだからはやく帰るってお母さんに言ってたんだった!
 じゃあ、イルカ先生ご馳走様でした。明日からよろしくお願いしまーす。」
ぺこりとお辞儀をしてから、あわてて手にしていたマグカップをイルカに手渡すと、そういってはかけていった。


「気をつけて帰れよ!お父さんとお母さんによろしくなー!!」
もう小さくなりかけているに向かって、イルカはそう叫んだ。



「はーい!!さよーならー」
遠くの方で走りながら手を振るの姿が見えた。


「くくく、ちゃんと前向かないと転ぶぞ〜。」
危なっかしい教え子の姿を見てイルカは思わず笑っていた。

「さーて、さっさと残りの仕事片付けてオレも帰りますかー。」

んーっと、暗くなり始めている空に向かってかるく伸びをしてから、イルカは職員室のほうへ歩き出した。
明日から、忙しくなるなぁーなんてあのなんとも手のかかる教え子を思いながら。


一方、帰り道のはというと・・・

へへへ、明日からイルカ先生と修行だぁー
今度こそちゃんと何でも出来るようになって皆を見返してやるんだから!

試験に落ちてすぐの暗い気持ちはどこへやら。なんとも、上機嫌で家路を急いでいた。






まだまだ、幼かったあの時。
私は、あの時のダージリンの香りを一生忘れない。









はい、連載ほっぽってついにイルカ先生にまで手を出してしまいましたー
だって、ねぇー?しょうがないですよね、イルカ先生もステキなんです。

イルカ先生ってすごく生徒思いのいい先生っぽいですよね。
あんな先生が、高校の時の先生だったら・・・なんて考えてると思わずよだれが出ちゃいますね(ェヘ
アカデミーの休みの関係とかは、ワタクシの捏造ですので、あしからず。

落ちこぼれの手のかかる生徒といえば、あの金髪の彼ですが
彼の先生になるずっと前の話です。


さてさて、後半に続きますー